レストランに足を運ぶのではなく、シェフが依頼者の自宅などに出向いて料理を作る出張料理。このスタイルで2026年の元旦に開業したのが、岡本庄平シェフです。
料理学校を卒業してからフレンチやイタリアンの名店を経て、出張シェフという業態に辿りついたという岡本シェフ。コースや大皿で提供する料理はもちろん、全ての料理の最後に出すデザートにも特別なこだわりがあるのだと岡本シェフは話します。
幼い頃から培ってきた味覚と、フレンチとイタリアンを経てたどり着いた「引き算の料理」という考え方。その味覚から作り出される「引き算の料理」とデザートには、食べた人が思わず言葉を失うような深い味わいがあります。
そんな岡本シェフが自信を持って提供する締めのデザート『ブラマンジェ』について、その誕生の背景までお話を聞きました。
ほんのりラベンダーの香るオリジナル『ブランマンジェ』

料理には生クリームを使わないという岡本シェフが、デザートだけには生クリームを使うのだと話します。
ブランマンジェとは、フランス語で「白い食べ物」を意味する真っ白なデザートです。アーモンドミルクを使って香りをつけるのが一般的ですが、岡本シェフはこれにラベンダーオイルを使って香りをつけるのだとか。
素材は生クリーム・牛乳・砂糖・ゼラチン、そしてラベンダーオイル。この素材を絶妙なバランスで配合することにより、唯一無二の味わいを作り出します。
生クリームの持つコクと、牛乳と砂糖がもたらす甘みにほんのりラベンダーの香りをまとわせ、ゼラチンで固める。それだけだからこそ、岡本シェフの持つ天賦の味覚が生きています。
この真っ白なブランマンジェに、旬のフルーツをピューレにしたソースをあしらうのが岡本流。
この『ブランマンジェ』が、どんなコースにも合う絶品のデザートであり「ブライダルのコースであっても、最後は『ブランマンジェ』で締める」という岡本シェフの自信作なのです。
子どもの頃から鍛えられていたシェフの味覚

味覚は、3〜10歳ごろの食生活や環境・経験などによって育つ感覚です。美味しいものをどれだけ食べてきたか、という経験が自ずと積み上がってできていく、後天的に完成される感覚だといえます。
ホテルオークラの代表取締役だった祖父の元、幼い頃から味覚の英才教育とも言える環境下で育った岡本シェフ。その味覚から作り出される味の数々には料理人としてのスタートから、定評があったのだそうです。
調理師学校の先生も認めた料理人としての感覚
調理師学校に通い始めた当時、調理を教えてくれる先生から「味覚がしっかりしている」と褒められたのだとか。
学校生活を通して先生からの信用も高く、卒業後の就職先も学校近くにあったレストランの面接を、先生が決めてきてくれたというエピソードもあるほど。
面接の席につくなり「いつから来られる?」と聞かれて、すぐに就職先が決まったのだそうです。
初めて勤めたレストランのシェフにも認められた味覚
そんな経緯で初めて勤めたのはフレンチ懐石のお店でした。フルコースを懐石で出すので、和食器を使い、盛り付けも和食のような盛り付けだったのだそう。
そこでもすぐに味覚を認められて前菜とデザートを任されたのだそうですが、当初はこれでいいのか自問自答の毎日だったとか。
そんなとき、自分が卒業した調理師専門学校に在籍する岡本シェフと同じ年の人が、アルバイトとしてお店に入ってきたのだそうです。その人がとても研究熱心な人だったため、とても影響を受けたと岡本シェフは話します。
「それまでは他の店のデザートを食べたり本を読んで学ぶ、という思考が自分になかったので、とても刺激を受けました。負けたくない!という気持ちもあったと思いますね」
そのお店での頑張りと岡本シェフの味覚が認められ、この後レストランウエディングを行うお店へとつながって行きます。
フレンチ・イタリアンの名店での修行

学校でもフレンチを中心に学んでいたという岡本シェフ。最初に勤めたレストランもフレンチのお店でした。その後レストランウエディングを行うお店を経て運命的な自然派イタリアンとの出会いがあったのだそうです。
現在の岡本シェフの料理のスタイルを作り上げたその過程について聞きました。
フレンチと和食の融合と盛り付けの美しさ
最初に勤めたフレンチ懐石を標榜するお店は、和食のお店をやってきたグルーブ会社のフレンチ部門としてできたお店だったのだそうです。
「和食器はとても凝った食器がそろっていて、盛り付けもそれまで学んできた「THE・フレンチ」というものではなく、和食に通じる盛り付け方。学校での学びとは違う学びがありましたね」
和食器への造詣もそのお店で深まったと話してくれました。
人の幸せを祝う場面で料理を作ることの幸せ
次に仕事をすることになったのがレストランウエディングを行うお店だったのだと岡本シェフは話します。フレンチ懐石のお店が閉店したタイミングで、一緒に働いていた人の紹介で、レストランウエディングを行うお店に勤めることに。
「ブライダルの料理を作っていて思ったのは「人の幸せを一緒に祝える仕事って幸せだな」ということでしたね。本当に楽しい仕事でした」
そう岡本シェフは話します。ウエディングケーキを作ったり、フレンチで使うフランス語を覚えたのもここだったのだそう。
「ここは完全にフレンチのレストランでした。フレンチの店でフランス語がわからないと仕事にならないんですよ。店内の指示は全部フランス語なんです。必死だったので、1年でだいたい覚えました」
毎日の仕事の楽しさもあって、フランス語を覚えるのも大変だとは思わなかったと話してくれました。
自然派イタリアンとの出会いで気づいたこと
その後イタリアンのお店やフレンチのお店をいくつか経験するうちに、ある時「フレンチは重いな」と思うようになったと岡本シェフは言います。
「味見していても疲れるなあと思い始めた時期があったんですよね。そんな時に自然派イタリアンに出会ったんです。フルーツトマトを使ったカッペリーニがとにかく美味しくて。
料理には生クリームを使わないんです。生クリームではなくて白インゲン豆を潰してペーストにして作るクリームパスタに、チーズは使います。でも生クリームを使わない分、重さもなくて食べやすいと思いました」
その自然派イタリアンのシェフに教えを受けて、今のスタイルにたどり着いたのだと岡本シェフは話してくれました。
足し算のフレンチと引き算のイタリアン
フレンチはソースで食べる料理。イタリアンはできるだけ素材を生かして食べる料理。これを例えて岡本シェフは話します。
「フレンチは足し算の料理。イタリアンは引き算の料理だと思うんです。素材に素材を重ねて味を作るフレンチと、素材に塩やオリーブオイルで食べるイタリアン。その事に気づいたとき「自分は引き算の料理がしたいんだな」と、思ったんです」
手間の掛け方は同じでも、できるだけ素材を活かせる手の掛け方をして料理を作る。そんな信条が垣間見えるお話でした。
人に喜んでもらえる食事の締めは『ブランマンジェ』

デザートに『ブランマンジェ』を使うというのも、自然派イタリアンのシェフの影響なのだとか。
どんなコースの内容でも、最後は必ず『ブランマンジェ』で締める。柔らかくて白い『ブラマンジェ』に旬のフルーツをアレンジすることで華を添える。
そんな料理に対するこだわりについてもお話を聞きました。
どこで自分の料理を提供するか、迷った時期の出張料理との出会い
最後に勤めていたレストランを辞めたあと、出張料理を食べる機会があったのだと岡本シェフは話してくれました。
「勤めていた店が閉店して、系列店は大阪や福岡など地方ばかりだったんですが、私には家族もいて、全員で引っ越しをするのはないかなと思っていました。そんなときに出張料理というスタイルがあることに気づいたんです」
そこから自分で出張料理をやるということを考え始めたのだと岡本シェフは言います。
フレンチの良さとイタリアンの良さを融合した引き算の料理
フレンチの名店やイタリアンの巨匠など、いろいろな人やお店との出会いを経て、味覚にさらに磨きをかける岡本シェフ。料理はいろいろあれど「自分はやはり引き算の料理を作りたい」その想いはいよいよ強くなりました。
「誰が食べても疲れない、美味しく食べられる。そんな料理が作れたらいいなと思うんです」
そう話す岡本シェフ。今までの経験と、誰もが信用をおくその味覚で、岡本流の料理を展開します。
岡本流の味を作り出した先に、自分の料理を自由に提供できる場所として、出張料理というスタイルがだんだん現実味をおびてきました。
そして2026年の新年から、新しく出張料理というスタイルでの開業を決めたのだそうです。
コース料理のデザートとしての『ブランマンジェ』
いろいろな経験を重ねて、やはり行き着いたデザートは『ブランマンジェ』だと岡本シェフは話します。
「どんなコースでも、大皿料理でも、締めのデザートは『ブランマンジェ』と決めています。基本の『ブランマンジェ』は同じでも、添える旬のフルーツによって見た目もフルーツの食感も変わるので、同じ印象にはならないのもいいところですね」
そう話す岡本シェフの『ブランマンジェ』聞けば聞くほど食べてみたくなりますよね。岡本シェフの出張料理をお願いすれば、必ず締めのデザートで味わえるそうなので、一度お願いしてみるといいかもしれません。岡本シェフの出張料理をお願いする場合は、InstagramのDMからオーダーが可能です。
本当に美味しいものを食べると人は言葉を失う

食べた人の沈黙は、最高の褒め言葉だと岡本シェフは言います。口に入れた瞬間に「美味しい!」と言えるのはまだ上があるからなのだとか。
「本当に美味しいものを食べたら、言葉は出なくなると思うんですよ。何を使ってるんだろう?どうやって味付けしたんだろう?どのくらい火を入れたんだろう?頭の中で無限に考えちゃいます。
食べた瞬間言葉を失う。これは最高の賛辞だと思ってます」
こう話す岡本シェフは、とても楽しそうでした。
自分で食べた料理に何が使われているのか、ほぼ言い当てられるという岡本シェフ。それでもわからないものがあると、とてもワクワクするのだそうです。
そんな岡本シェフだからこそ、新しい味との出会いを大切にし、既知のものから新しいものを作り出すことにとても意欲的です。
これからも意欲的に美味しいものを作り出す岡本シェフの料理から目が離せません。
※この記事に掲載されている情報は、2026年10月6日時点の情報です。
本記事のライター Profile
YUMI

スイーツの中でも生クリームが大好きで、生クリームを使ったスイーツには目がない。
生クリームを使ったスイーツを見つけるとついつい買ってしまうため、なんのかんのと平均月10個は生クリーム系スイーツを購入してしまうほど。
最近バタークリームにも目覚めたので、美味しいバタークリームを使ったスイーツを探索中。
編集歴は20年以上。動物や健康などの記事のほか、旅行雑誌やムックなども手がける。国内旅行の記事を担当することが多かったため、地方のスイーツにも明るい。 つい食べ過ぎてしまい、常に体重の増加と闘っている。

本記事の監修者

監修者・パティシエ
伊東福子
兵庫県芦屋市「ポッシュ・ドゥ・レーヴ芦屋」オーナーシェフパティシエール。神戸海星女子学院大学卒業後、フランス・リッツエスコフィエへ短期留学。代官山ル・コルドンブルー東京校で製菓ディプロムを取得し、パレスホテル東京などで研鑽。「ジャパンケーキショー東京」連合会会長賞受賞。素材の個性を活かした繊細で驚きのある菓子づくりに定評があり、近年はグルテンフリーなどライフスタイルに寄り添うスイーツにも注力。日常にやさしい余韻を届けている。

ガイド・パティシエ
勝目響日
辻製菓専門学校を卒業後、五つ星ホテルやイタリア伝統菓子店、海外のホテルやカフェで腕を磨く。約100年の歴史を持つ鎌倉の老舗企業でも勤務し、日本文化への感性も大切にしている。日本とヨーロッパの技術を基盤に、現在はオーストラリアを拠点に新たな表現を追求中。

いいモノ.com編集部・スイーツ担当
ライター・カメラマン・フードスタイリスト
浅井宏美
大学院卒業後、タウン情報誌の編集者として約16年間勤務。“毎日の生活をちょっと楽しく”をテーマに、地域のグルメやイベント、スポーツ、カルチャー等の情報発信に携わる。通販事業にも関わり、地域の生産者や作り手の想いを商品とともに全国に届ける仕事も手がける。その経験を活かし、現在はフリーランスのエディター・ライター・カメラマン・フードスタイリストとして活動中。趣味はカメラ、お出かけ。愛機はNikon Z6で「そのとき・その場所で」しか撮れない写真を撮ることが好き。
